頭金とは「ローンなどの分割払いで最初に支払うまとまったお金」のことをいいます。
不動産投資では多くの場合、ローンを利用して物件を購入することになると思います。
そもそも不動産投資を始めるのに頭金はいくら必要なのか?
気になっている人も多いのではないでしょうか。
不動産投資をこれから始めようという方であれば、資金はなるべく抑えたいもの。
しかし、ちょっと待ってください。
頭金はただ抑えれば良いという単純なものではありません。
不動産投資において頭金は投資リスクを抑えるなどのいくつかのメリットがあります。
頭金は考え方次第で不動産投資の成果が大きく変わってくるのです。
今回この記事では、不動産投資を始める上で必ず知っておきたい「頭金」についての知識と実践的な考え方について解説します。
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頭金はいくら必要なのか?
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頭金の相場・目安はどれくらいなのか?
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頭金0円で不動産投資ができるのか?
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頭金が少ないことのメリット・デメリットとは?
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頭金の理想的な割合とは?
このような疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてみてください。
1. 不動産投資を始めるのに必要な頭金はいくら?
1-1. 頭金の目安は物件価格のおよそ10%~30%
頭金の目安は物件価格のおよそ10%~30%といわれています。
1000万円の物件であれば、頭金は100万円~300万円。
5000万円の物件であれば、頭金は500万円~1500万円が必要となります。
ただし、具体的に必要な頭金というのは「融資を受ける人」「融資をする金融機関」によって大きく変わりますので、あくまでも目安ととらえてください。
物件の購入には「頭金」以外に「諸経費」が物件価格の7%~8%ほど必要になります。
よく勘違いされやすいのが、「頭金=自己資金」というもの。
実際には頭金だけでなく、物件の購入にあたって様々な諸経費がかかります。
「頭金 + 諸経費 = 自己資金」であるということを理解しておきましょう。
購入時の諸経費には以下のようなものがあります。
- 仲介手数料
- 登記費用
- ローン事務手数料
- 火災保険料
- 司法書士への報酬
- 印紙代
- 登録免許税
- 固定資産税などの清算金
1000万円の物件では約70万円、1億円の物件では約700万円必要になります。
つまり、
【頭金】10%~30% + 【諸経費】 7% ~ 8% = 【自己資金】 17% ~ 38%
物件価格の20%~40%ほどの自己資金が必要になるということです。
後述しますが、頭金はゼロ円でも始めることも可能です。
しかし頭金ゼロ円で始められるといっても、購入時の諸経費が必要になる場合があるので注意しましょう。
購入時の諸経費については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、読んでみてください。
1-2. 場合によっては「頭金0円」も可能
昨今の低金利時代によって今では「頭金0円」で物件価格の全額融資がつくという「フルローン」も場合によっては可能です。
フルローンとは「物件の購入金額のすべてをローンでまかなうこと」をいいます。
「頭金ゼロ円で物件を購入すること」とも言い換えられるでしょう。
最近でこそ話はあまり聞かなくなりましたが、物件価格のほかに諸経費までも含めた100%を超える融資「オーバーローン」が可能な物件もあります。
オーバーローンとは「物件の購入金額以上の融資をうけること」をいいます。
物件の購入金額だけでなく、諸経費や場合によってはリフォーム代などもすべて含めた金額を融資でまかないます。
一昔前では物件価格すべてに融資がつくということは考えられませんでした。
「フルローン」「オーバーローン」でどんどんと融資が出るのは、この異常ともいえるほどの低金利時代だからこそともいえます。
区分マンションはフルローンが出やすい
区分マンションはフルローンで購入が可能です。(2018年時点)
「物件の評価」というものは金融機関によってとらえ方が様々です。
一棟物件と違って、「土地を自由に使えない」などの理由から区分マンションには一切融資をしないという金融機関も存在しますが、反対に「価格が安い」「好立地が多い」「流動性が高い(売却しやすい)」などの理由から積極的に融資をしてくれる金融機関も存在しています。
そのような金融機関と提携している販売業者では諸費用をサービスしてまったくの0円で不動産投資を始める事も可能となっています。
一棟アパートは最低でも物件価格の10%程度の頭金が必要
一棟アパート投資においては、頭金は物件価格の10%程度求められることが多いようです。
近年ではアパートローンの過剰融資から金融庁が監視を強化しており、金融機関の融資基準も厳しくなっているためです。
フルローンで融資してくれる金融機関はまだ中にはいるかもしれませんが、そのほとんどは金利が非常に高く設定されているので、投資としてはかなり不利になります。
一棟アパートの購入となると、安いものでも5000万円程度します。
つまり、頭金は最低でも500万円、諸経費を含めれば1000万円近く必要になります。
一棟アパート投資を行うのであれば、自己資金はそれなりに必要となるでしょう。
2. 頭金が少ないことのメリットとデメリットは?
不動産投資で数十万~数百万の自己資金を支払うのはやはり抵抗があるという方は多いと思います。
「どうせお金を出すのであれば、頭金はできるだけ少なくしたい!」という方も実際数多くいます。
頭金を含む自己資金が少ないということは、それだけ「はじめやすい」という大きなメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。
ここでは頭金が少ないことのメリット・デメリットについて整理しておきましょう。
2-1. 頭金が少ないことのメリット
まず、頭金が少ないことのメリットは大きく2つです。
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手元に資金を置いておける
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投資効率が格段に上がる
手元に資金を置いておける
まず1つ目に挙げられるのが、頭金が少なければ、それだけ資金を多く手元に残しておくことができるという点です。
手元に資金が多くあると以下のようなメリットがあります。
想定外のリスクに対応ができる
不動産投資では設備不良や退去後のリフォームなど突発的な出費が発生することはまったく珍しくありません。
手元に資金が多くあれば、たとえ想定外の出費が発生した場合でも余裕をもって対応することができます。
投資戦略の幅が広がる
資金が多くあれば、物件を2件、3件と購入する際の頭金に使ったり、ローンの繰上げ返済に充てたりなど、投資戦略の幅が広がります
資金がなければ、投資戦略もなにもありません。
分散投資ができる
投資の格言に「すべての卵を一つのカゴに盛るな」というものがあります。
一つのカゴ(投資商品)にすべての卵(資金)を盛ると、そのカゴを落とした時に卵がすべて割れて台無しになってしまうということから、分散投資の大切さを説いた格言です。
長期的な資産運用では多種類の投資商品を組み合わせることで、リスクをできるだけ低減させることが大切です。
資金に余裕があれば、株や投資信託などへの分散投資もでき、リスクヘッジが可能になります。
投資効率が格段に上がる
次に2つ目は、頭金(自己資金)を極力少なくすることで投資効率が格段に上がることです。
不動産投資の投資効率を表す指標として「CCR」というものがあります。
「CCR」とは「Cash On Cash Return」の略で自己資金に対してどれくらい効率よく利益をあげたかを計る指標で、以下の計算式にて表されます。
CCR(%) = 年間利益 ÷ 自己資金 × 100
上記の計算式から分母である自己資金は少なければ少ないほどCCRの値は上がるのがわかると思います。
逆に、自己資金を年間利益で割ることで自己資金の回収期間が計算できます。
自己資金の回収期間(年) = 自己資金 ÷ 年間利益
CCRの値が大きいほど、短い期間で自己資金が回収できるということになります。
これだけでは少しイメージがしづらいと思いますので、簡単な例を挙げてみましょう。
例えば、「頭金1,000万円」を使う場合を考えます。
※わかりやすくイメージしてもらうため、物件の利回りと経費(物件価格の80%)はそれぞれ同じとし、購入の諸経費はかからないものとします。
例1)頭金の割合50%で物件を購入する場合
物件A | |
物件価格 | 2,000万円 |
年間家賃収入 | 200万円(表面利回り10%) |
年間経費 | 160万円(ローン返済含む) |
年間収支(キャッシュフロー) | 40万円 |
上記物件Aを頭金1000万円で購入する場合のCCRは、
年間収支 40万円 ÷ 自己資金 1000万円 × 100 = 4%
自分のお金である1000万円が1年間で4%にあたる40万円の利益を生み出したという意味になります。
さらに自己資金をすべて回収するまでにかかる時間は、
自己資金 1000万円 ÷ 年間収支 40万円 = 25年
となります。
例2)頭金の割合10%で物件を購入する場合
物件B | |
物件価格 | 1億円 |
年間家賃収入 | 1,000万円(表面利回り10%) |
年間経費 | 800万円(ローン返済含む) |
年間収支(キャッシュフロー) | 200万円 |
上記物件Bを頭金1000万円で購入する場合のCCRは、
年間収支 200万円 ÷ 自己資金 1000万円 × 100 = 20%
自分のお金である1000万円が1年間で20%にあたる200万円の利益を生み出したことになります。
例1)より自分のお金を効率的に増やせていることがわかると思います。
自己資金がすべて回収できる期間も、
自己資金1000万円 ÷ 年間収支200万円 = 5年
例1)よりも短くなりました。
このように頭金の割合は少なければ少ないほど投資効率が上がり、自己資金を効率的に回収することができるのです。
2-2. 頭金が少ないことのデメリット
対して、頭金が少ないことのデメリットは以下2つです。
- ローンの利息負担が増える
- 売却できなく恐れがある
基本的に頭金は少ないほど投資リスクが高まることになります。
ローンの利息負担が増える
頭金が少ないと当然お金を借りる金額が大きくなるため、ローンの総返済額は増えることになります。
投資元本のみを考えた場合、頭金でまとめて先に支払うか、ローンで分割して払うかの違いになりますが、問題なのは借りたお金に対する利息です。
例えば、以下の物件と融資条件の場合で考えてみます。
物件C | |
物件価格 | 2,000万円 |
融資条件 | |
ローン金利 | 2% |
返済期間 | 35年 |
頭金400万円を入れて購入した場合
借入金額 | 1,600万円 |
利息負担分 | 620万円 |
総返済額 | 2.220万円 |
毎月のローン返済額 | 5.3万円 |
頭金0円(フルローン)で購入した場合
借入金額 | 2,000万円 |
利息負担分 | 780万円 |
総返済額 | 2,780万円 |
毎月のローン返済額 | 6.6万円 |
頭金0円で投資することによって利息負担分が約160万円も多くなってしまいます。
毎月の返済額も約1.3万円多くなりますので、毎月の収支も悪化しやすくなります。
売却できなくなる恐れがある
もう一つのデメリットは、「担保割れ」によって物件を売却できなくなるリスクが高くなってしまうことです。
「担保割れ」とは、物件を売却できる金額(担保価値)がローンの残り金額を下回っている状態のことをいいます。
ローンが2,000万円残っているのに、物件は1,800万円でしか売却ができないというような状態です。
こうなると、差し引きの200万円は自分のお金から出す必要があります。
「売るに売れない」という状態になる可能性があるのはもちろん、金融機関からの印象も悪くなり、追加で融資を受けることも難しくなってしまいます。
不動産の価値は時間の経過とともにゆるやかに下落していきます。
物件価格の大半をローンで組んでいる場合、ローンの減りの早さよりも価値の下落のほうが早くなりやすく、「担保割れ」を起こすリスクが高まります。
3. 頭金はいくら入れるのが理想なのか?
では、頭金はいくら入れるのが理想的なのでしょうか?
残念ながら、不動産投資において「頭金の割合はこれが正解!」というものはありません。
そもそも頭金は「融資を受ける人」や「融資をする金融機関」によって必要な金額は変わってきますし、その人の状況や考え方によってもそれぞれ異なってくるからです。
頭金の「理想」というものは一概にいえるものではありませんが、一つの指標となるものに「返済比率」があります。
3-1.「返済比率50%以下」を目安に頭金を投入する
「返済比率」を50%以下とすることで、より安全に不動産投資をすることができます。
「返済比率」とは、「家賃収入に対するローンの返済額が占める割合」のことをいいます。
返済比率は、ローンの返済額を家賃収入で割ることで算出されます。
返済比率(%) = ローン返済額 ÷ 家賃収入 × 100
例えば、月々の家賃収入が10万円。月々のローン返済が5万円の場合、
5万円 ÷ 10万円 × 100 = 50%
となります。
不動産投資では一般的に返済比率は50%以下で「安全」、60%超で「危険」とされています。
基本的に「フルローン」「オーバーローン」は返済額が大きくなるので、返済比率は高くなる傾向にあります。
しかし裏を返せば、「フルローン」「オーバーローン」であっても、「返済比率」が50%以下であればリスクの少ない安全な不動産投資ということでもあるのです。
「フルローン」「オーバーローン」が危険というよりは、「返済比率が高い」ということが危険なのです。
この「返済比率」は物件の利回り、ローンの金利・期間などである程度コントロールすることができますが、頭金を投入して借入金額を少なくすることでもコントロールすることが可能です。
3-2. 頭金で「返済比率」をコントロールする具体例
例えば、以下の物件と融資条件でシミュレーションをしてみます。
※その他の経費や税金を「家賃収入の20%」、空室による減収の考慮分として「家賃収入の10%」と想定します。
物件D | |
物件価格 | 1,000万円 |
家賃収入 | 50万円(表面利回り5%) |
融資条件 | |
ローン金利 | 2% |
返済期間 | 35年 |
頭金0円の場合
毎月のローン返済額 | 3.3万円 |
返済比率 | 66% |
手取り収入(キャッシュフロー) | 2,000円 |
頭金100万円の場合
毎月のローン返済額 | 2.98万円 |
返済比率 | 59.6% |
手取り収入(キャッシュフロー) | 5,200円 |
頭金250万円の場合
毎月のローン返済額 | 2.48万円 |
返済比率 | 49.6% |
手取り収入(キャッシュフロー) | 10,200円 |
不動産投資では頭金よりも、手元の資金が重要になります。
突発的な出費のために常に備えておく必要があるためです。
手取り収入(キャッシュフロー)が少ないと、突発的な出費が発生した場合、自分のお金をより多く消費してしまうことになります。
上記の例では、頭金250万円を投入し、返済比率を50%以下に抑えてあげることで、月々の手取り収入(キャッシュフロー)も増え、突発的な出費にも対応しやすい状態になっています。
「返済比率50%以下」を一つの目安に頭金を投入すれば、手取り収入(キャッシュフロー)も多く得られ、より安全な不動産投資ができるのです。
4. どれだけリスクを許容できるかで頭金の考え方は変わる
頭金はリスクをどれだけ許容できるかでも考え方は変わってきます。
4-1.「リスクをとってでもリターンを多くしたい人」の頭金の考え方
「リスクをとってでも、不動産投資で成功したい!」
そのように考えている人の場合、頭金はできるだけ抑えるようにしましょう。
不動産投資での成功を考えると、やはり「投資効率」を重視する必要があります。
資金が十分にある場合
「資金はたくさんある。リスクをとってでもリターンを多く取りたい。」
このタイプの人はローンの繰上げ返済や別物件の購入などで返済比率を自分でコントロールすることができるのが強みでしょう。
資金が潤沢な分、突発的な出費にも問題なく対応することができます。
自己資金はなるべく温存して、2件、3件…と不動産投資の規模を拡大していくことが成功への近道です。
「フルローン」が可能な物件であれば、積極的に活用するようにしましょう。
資金が少ない場合
「リスクはとってもいいけど、資金もあまりない…」
一般のサラリーマンの方に多いのがこのタイプです。
購入したい物件があれば、多少返済比率が高くなったとしても、購入を検討しましょう。
不動産投資で成功を目指すのであれば、そもそも物件を買わなければ何も始まりません。
資金があまりにも少ない場合は物件を買うこと自体が難しくなりますが、一定以上の年収・勤め先(上場企業や公務員)などの金融機関から評価が高い人であれば、フルローンで購入できる可能性もあります。
ただし、「物件選び」にはより注意する必要があります。
資金がたくさんある人と比べて、発生したリスクに対する影響が大きいので、なるべく空室リスクが少ない都心の物件を選ぶのがオススメです。
4-2.「リスクを抑えて堅実に不動産投資をしたい人」の頭金の考え方
「不動産投資をしたいけど、リスクは極力抑えたい!」
そのように考えている人の場合、頭金はある程度用意しておきましょう。
頭金を入れることで、月々の返済額が少なくなり、収支を安定化させることができます。
資金が十分にある場合
「資金はたくさんあるけど、リスクも抑えたい」
この場合は極論をいえば、物件を現金一括で買うのが一番です。
ローンを利用するのであれば、返済比率は40%以下となるように頭金を調整しましょう。
よほどのことがない限り、安全な不動産投資ができます。
ただし、投資効率としてはかなり悪くなってしまうのは言うまでもありません。
資金が少ない場合
「資金が少ないので、リスクを極力抑えたい」
こちらもサラリーマンの人に多いタイプです。
リスクを取りたくないのであれば、頭金を用意して返済比率を抑えましょう。
返済比率は40%以下が理想的ですが、これはかなり利回りの良い物件か頭金を相当入れないと実現しない数字です。
「物件は欲しいけど、リスクはとりたくない」という人は、まずは頭金を貯めるのが先決です。
まとめ
不動産投資における頭金は多ければ多いほど、投資の安定性は増します。
しかし、投資効率という面で考えると頭金は少ないほうが効率は良くなります。
最近では融資をする金融機関の目も厳しくなってきており、頭金を要求されることも多くなってきました。
今後、日本の経済情勢によっては「フルローン」「オーバーローン」も夢の話になるかもしれません。
一般の人が有利な条件で融資を受けるには、歴史的な低金利である今がチャンスであることは確かです。
頭金を多くするか少なくするかは別として、始めるには早いに越したことはありません。
ただし、焦りは禁物です。
不動産投資では頭金以上に手元の現金(キャッシュ)が重要になります。
始める際には手元の資金は十分に確保した上で、なおかつ余剰資金があった場合にはじめて頭金をどうするのかを検討するようにしましょう。
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